トレジャリー(Treasury)とは、カルダノのプロトコルが管理する「公共の財布」のことを指す。エコシステムの開発・運営・コミュニティ活動を持続的に支えるための資金プールであり、ADA保有者全員が間接的に関与する仕組みになっている。
オープンソースのブロックチェーンは、誰でも参加できる反面、開発資金の確保が難しいという課題を抱えている。カルダノはその解決策として、プロトコル自体に「トレジャリー」を設けることで資金調達の仕組みを組み込んでいる。これにより、外部の投資家や企業に依存することなく、ネットワーク自身の資金をコミュニティの意思決定によって開発に投入することができる。
トレジャリー資金の財源とは?
トレジャリーへの流入源は主にリザーブからの分配だ。毎エポック(約5日)、ネットワーク全体のステーキング報酬の財源となる「貨幣膨張分」のうち、20%(τ=tau)がトレジャリーに自動的に積み立てられる。
現在(2026年4月・Epoch 626)の積み立て額は1エポックあたり約385万ADA、年間では約2.8億ADAに相当する。
毎エポックの報酬ポットは「リザーブ放出」と「トランザクション手数料」の合算で構成され、そこから20%がトレジャリーに入る。
下記は、エポック626時点(2026年4月)における1エポックのトレジャリー収入である。
| 財源 | 1エポック | トレジャリー分(20%) |
|---|---|---|
| リザーブ放出(ρ=0.3%) | 約19,263,535 ADA | 約3,852,707 ADA |
| トランザクション手数料 | 約16,095 ADA | 約3,219 ADA |
| 合計 | 約19,279,630 ADA | 約3,855,926 ADA |
執筆時点では手数料分はリザーブの0.08%程度に過ぎず、トレジャリー収入のほぼ全てがリザーブに依存している。長期的にはリザーブの枯渇に伴い手数料が主財源になることが想定されているが、現在の取引量では大幅に不足しており、ネットワークの継続的な活性化が課題となっている。
トレジャリー資金の引き出し手順
トレジャリーには専用のウォレットアドレスが存在せず、資金の引き出しはオンチェーンのガバナンスアクション(TreasuryWithdrawals)によってのみ実行される。ガバナンスアクションにおいては、DRep(委任代表者)・憲法委員会(CC)による承認が必要となっている。
2021年からの残高推移
この仕組みが整ったのは2024年9月のChangハードフォーク以降である。それ以前は流入のみで、引き出す手段がなかった。2020年〜2026年4月末におけるトレジャリー資金の残高の推移は下記の通りである。
| 年末 | Epoch | 残高 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 239 | 240,110,310 ADA | — |
| 2021年 | 312 | 756,609,426 ADA | +516,499,116 |
| 2022年 | 385 | 1,113,894,700 ADA | +357,285,274 |
| 2023年 | 458 | 1,446,160,833 ADA | +332,266,133 |
| 2024年 | 531 | 1,637,199,824 ADA | +191,038,991 |
| 2025年 | 604 | 1,668,608,511 ADA | +31,408,687 (引き出しで相殺) |
| 2026年4月現在 | 626 | 1,617,354,049 ADA | −51,254,462 (初めて残高が減少) |
2021〜2024年は引き出し手段がなかったため純増が続いた。2025年から本格的な引き出しが始まり、2026年に入って初めて残高が減少している。
執行済み引き出し実績(2025年〜)
ChangハードフォークでガバナンスによるTreasuryWithdrawals(トレジャリー引き出しガバナンスアクション)が可能になって以来、2026年4月現在で累計414,873,507 ADA・44件が執行された。
| 時期 | 金額 | 件数 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 2025年7月 | 1,500,000 ADA | 1件 | — |
| 2025年8月 | 270,531,507 ADA | 37件 | Catalyst Fund13等・集中執行 |
| 2025年11月 | 5,000,000 ADA | 1件 | — |
| 2026年1月 | 70,000,000 ADA | 1件 | — |
| 2026年3月 | 10,142,000 ADA | 1件 | — |
| 2026年4月 | 57,700,000 ADA | 3件 | — |
| 累計 | 414,873,507 ADA | 44件 | — |
特に2025年8月は約2週間で2.7億ADAが一斉に執行されており、同時期に対BTC価格がATLを記録したことにより、トレジャリー支出における市場へ売り圧との関係も激しく議論されている。
NCL(Net Change Limit)とは
トレジャリー残高の「年間純減額の上限」を定めるパラメータだ。現在は350M ADAに設定されており、リザーブからの年間流入額(約280〜380M ADA)と概ね一致している。「利息の範囲で使い、元本は守る」という持続可能な財政設計の考え方に基づいている。


