エディンバラ分散性インデックス(EDI)で、最強の分散化チェーンを理解する!

カルダノ情報

2024年3月に、エディンバラ大学の研究チームが「エディンバラ分散性インデックス」のダッシュボード(アルファ版)を公開しました。
このダッシュボードでは、ナカモト係数(Nakamoto Coefficient)をはじめ様々な指標を用いて、カルダノやビットコイン、イーサリアムなど各ブロックチェーンを測定し、それぞれの分散性を客観的に分析することができるようになっています。
しかし、各指標は極めて専門的なブロックチェーン用語や経済指標が次々に登場するので、いきなりデータを見ても混乱してしまう人がほとんどだと思われます。
本記事では、各指標をできるだけわかりやすく解説し「エディンバラ分散性インデックス(EDI)」の全貌をわかりやすく解説していきます。
各種指標に向き合うことで、カルダノだけでなく、ビットコインやイーサリアムなどの主要ブロックチェーンの分散性の傾向を把握することができるようになり、長期的な暗号通貨投資における有益なヒントを得られるでしょう。

ナカモト係数(Nakamoto Coefficient)

「ナカモト係数(Nakamoto Coefficient)」は、「リソースの50%以上(この場合、マイニングや、ステーキングパワーの大部分)を支配するエンティティ(参加者)の最小数」を表します。元々は、コインベースの元CTOであるBalaji S. Srinivasan氏らによって提唱された指標です。
ものすごく簡単に言うと「ネットワーク支配に必要な参加者の最小数」です。

①ネットワーク支配に必要な参加者が少なければ少ないほど、グループを結成してネットワークを支配しやすくなる
②ネットワーク支配に必要な参加者の数が多ければ多いほど、グループの結成が難しくなり支配難易度が高くなります

乱暴に言えば「数値が高ければ高いほど分散性が高い」と言えます。このポイントを抑えて上の指標を見ることで、ナカモト係数と主要ブロックチェーンの関係性を推し量ることができます。このナカモト係数を加味して上のグラフを見てみましょう。

【カルダノ】
2020年の7月以降(PoSの開始)からナカモト係数が急上昇し、直近では最高値の「59」とダントツでトップとなっています。PoSの開始から継続して上昇していましたが、2022年の1月以降に一度下落したものの「35」から反転し、それ以降はほぼ右肩上がりを継続しています。ピックアップされたブロックチェーンの中で2桁の計測値を超えたのはカルダノのみであり、ナカモト係数においては群を抜いていると言えます。

【イーサリアム】
イーサリアムにおいては、2022年9月の「マージ」ハードフォーク(PoSへの以降)を前に「3」から「5」へと上昇。PoSへの以降が大きな要因と考えられるものの、すぐに収束しPoWの時期とほぼ変わらない値に戻ってしまっていることがわかります。

【ビットコイン】
ビットコインはこの数年間で1〜4の値を緩やかに上下していますが、特筆すべき変化はありません。

ジニ係数(Gini Coefficient)

ジニ係数(Gini Coefficient)」は、「所得の不平等さを測る指数」で、1912年にイタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案されました。格差の大きさを測る指数として、
①「0」に近づくほど平等性が高い
②「1」に近づくほど不平等である
ことを表しています。
一見、分散化に関係ない指標のように見えますが、EDIでは「ブロック生成における平等性」を測るデータとして扱っています。つまりブロックチェーンにおいては、
①「0」近いと、多くの参加者がブロック生成に関与している(平等性が高い)
②「1」に近いと、一部の参加者のみがブロック生成に関与している(平等性が低い)
と捉えることができます。この前提を踏まえてグラフを見てみましょう。

【カルダノ】
当初は限りなく「1」に近い数値でしたが、やはりPoSが開始された2020年8月から急激に下落し、直近のデータにあたる2023年6月には「0.90」台まで下がっています。他のブロックチェーンと比較して圧倒的に低い数値となっています。これは、カルダノが他のブロックチェーンよりも「多くの参加者がブロック生成に関与している」ということを示していると言えます。

【ビットコイン】
ビットコインの場合、最高「0.98」(2020年4月1日)から最低「0.96」の間で変遷しており、イーサリアムやライトコインなどの古株ブロックチェーンより低い値に抑えられています。一方で、2022年2月以降は減少する傾向もなく緩やかに右肩上がりとなっています。

【イーサリアム】
2022年7月まで「0.999」という非常に不平等な指数が定着していたものの、やはりPoS導入の2022年9月を前に、「0.992」へと減少したものの、その後は上昇に転じ、2023年7月には「0.996」となっています。

そのほかのブロックチェーンをみても、テソズの「0.967」がカルダノをのぞいた場合の最小値で、「0.906」を記録しているカルダノには遠く及ばない結果となりました。

シャノン・エントロピー(Shannon Entropy)

シャノン・エントロピー(情報エントロピー、平均情報量とも)は、確率変数における「不確実性の尺度」を表します。もともとは、熱力学における概念だった「エントロピー」を、1948年にアメリカの数学者クロード・シャノンが情報理論において応用したものです。
情報理論においては、ある出来事(事象)が起きた際、「それがどれほど起こりにくいか」を表す尺度を表します。
イメージ的には、「確率が100%の事象」の場合は「0bit」、50%の場合は「1bit」というように、確率が低い事象の場合に「情報量(bit)」が高くなる計算です。
一般的には、エントロピーの値が高いほど分散性が高い(予測しにくい)ことを示します。
このEDIにおいては、ブロック生成が起きるパターンが多ければ多いほど、ブロック生成確率が分散していると捉えることができます。

これを踏まえて上記のグラフを見ると、テゾスが「5」と相対的に高い指標を出しているものの、ビットコインやイーサリアムなどは「3〜4」に止まっています(イーサリアムのみ、やはり「マージ」直前に数値が上昇していますが、他の指標と同様に一時的なものでした)。
カルダノはここでも他ブロックチェーンを凌駕しており、2023年では「8」を維持し緩やかに上昇しています。

ハーフィンダール・ハーシュマン指数(Herfindahl-Hirschman Index)

ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)は、経済学の指標で、特定の産業における競争状態を表す指標です。
計算式は「その産業における参加者の市場占有率の2乗の和」と定義されています(例えば、2社の寡占状態の市場で市場占有率がともに50%の場合、2×0.52=0.5となる)。計算式は難しいですが、データの読み方はいたってシンプル。
①「0」に近い値は、市場占有率が低い(参加者のブロック生成数が同程度)
②「1」に近い値は、市場占有率が高い(少数の参加者が大部分のブロック生成を行う)
これを踏まえてグラフをみてみましょう。

【カルダノ】
カルダノの場合、シェリー以後から急激に市場占有率が低下し、2021年第一四半期後から継続して「200以下」の状態が続き、継続して低下傾向にあります。これはカルダノのブロック生成における市場占有率が、他のブロックチェーンと比較して極めて低いことを表しています。

【テゾス】
この指標においてはテゾスも優秀で、カルダノより早い2020年1月から「1000以下」の状態に突入。2021年上半期には微増となりますが、6月からは半減し、「500〜600」の状態を維持しています。

【ビットコイン】
直近では、2020年4月(BTC価格70万円台)で最も高く「2988」を記録。2021年1月(BTC 価格390万円台)に「1024」と最低値隣、その後は右肩上がりに上昇。「1800〜1900」で推移する形となりました。「価格が安くなると独占傾向がある」という仮説が立てられそうですが、ビットコインの社会的認知の拡大に伴いボラティリティが高いため何とも言えません。2022年以降は価格が上昇傾向にもかかわらずHHIの値も上昇傾向となっています。

【イーサリアム】
イーサリアムはビットコインとは異なり、PoS導入の「マージ」以前は「1300〜1750」付近で緩やかに推移していました。しかし、マージHFの2022年9月に「657」へと大きく減少。PoSの導入により市場占有率が低下すると思われたものの、翌月には「1600」へと大きく上昇し、その後は右肩上がりで2023年4月には「2260」へと到達。2023年は「2200」を境に推移する形となりました。

ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)においても、カルダノの数値は極めて低く収まっており、ブロック生成における市場占有率が低い(=平等性が高い)ことがわかります。一方で、同じPoS勢ながらイーサリアムはPoSへ転換後に市場占有率が高くなっており市場独占が強まる結果となっています。

Theil指数(Theil Index)

Theil指数は、経済的不平等やその他の経済現象を表す指数です。オランダの計量学者ヘンリー・テイルによって提唱されました。この指数は、母集団における多様性の欠如、つまり冗長性を捉えるもので、計算式は「データの可能な最大エントロピーから、観測されたエントロピーを引いた値」と定義されています。
一般的な経済格差の測定においては、誰もが同じ所得を持つという「理想的な平等状態」を「0」として「計測する集団が理想からどれくらい離れているか?」をエントロピーを用いて測定します。数値が高いほど「理想的な平等状態」から離れていることを表します。
難しい説明を省くと、
①「0」に近い値は「平等」
②値が増えるほど「不平等」
と読むことができます。

【カルダノ】
PoS開始前まで、カルダノは「7.82」を維持。PoS開始直後から急激に指数が低下し、2021年上旬から「2台」に突入。以後は緩やかに下落しており、「2.2~2.1」の間を推移しています。

【イーサリアム】
やはり「マージ」を境に一時的に下落する動きがあったものの、継続して「7」以上を維持。PoS開始後は「7.2〜7.3」で推移しており、「7.1」で推移していたPoW時代を上回る値を示しています。

【ビットコイン】
アップダウンが激しいものの、最大で「3.7」(2020年4月)、最低で「2.93」(2021年10月)と、HHIと類似の動きを垣間見ることができます。やはり価格との因果関係がありそうですが、現在の動きにおいては説明がつかない部分もあるため、傾向が変わってきているようにも見えます。

全体を通してみると、カルダノ、テゾス、ビットコインが他のブロックチェーンと比較して平等性が高いという結果となっています。

最強権力レシオ(Max Power Ratio)

最強権力レシオ(Max Power Ratio)は、最もブロック生成している「最強の参加者」のブロック生成割合を表す指標です。例えば、カルダノはPoS開始前の2020年7月以前はIOGのノードが全てのブロック生成を行っていたため、最強の参加者であるIOGが全てのブロック生成権を握っていました。そのため最大値「1」となっています。
つまり、この数値が高ければ高いほど「最強の参加者の権力が強い」、低いほど「最強の参加者の権力が、分散化度合いが高いと捉えることができます。

【カルダノ】
前述の通り、2020年7月以前は独占状態にありましたが、PoS開始直後から急激にレシオが減少。2021年には「0.07」という最低水準の低さを記録し、その後も「0.08〜0.09」という極めて低い水準で安定しています。

【ビットコイン】
ビットコインは、シャノン・エントロピーやTheil指数などの市場独占関連の指数と連動した動き。やはり2020年4月に最大値「0.5」を記録し、その後、2021年7月に最低水準の「0.149」まで下落しています。その後は「0.3」まで上昇するなど、最大パワーレシオは比較的高いままと判断できそうです(2023年8月以降はデータ不足のエラーにより「0」となっていると考えられます)。

【イーサリアム】
イーサリアムは、PoW時代は「0.2」後半を推移していました。やはり2022年9月の「マージ」のタイミングで大きく下落し「0.127」を記録し分散化に傾きましたが、こちらもシャノン・エントロピーやTheil指数と同様に直後に急上昇。その後はPoW時代より悪化し「0.3」後半から「0.4」台までで推移しています。

ここでもカルダノの数値が他のブロックチェーンと比較して極めて低い結果となっています。次に良好な数値となっているのがテゾスで、この傾向は他の指数でも同様で、比較的分散化度合いが高いことがわかります。
また、この指標ではドージコイン(Doge)も入力されていますが、意外にもテゾスに次いで低い数値でまとまっており、相対的にパワーレシオが低いブロックチェーンということがわかります。

タウ(τ)分散化指数(Tau-Decentralization Index)

τ分散化指数は、「総リソースの端数τ以上(この場合、マイニングorステーキングパワーの66%以上)を集団的に支配する参加者の最小数」を表します。
一定割合のブロック生成に関与する参加者の数を出すことで、そのブロックチェーンの分散化度合いを測る目的の指数です。
ここでは、ネットワーク支配が可能な数値として「τ=ブロック生成における66%」を定数に設定し、このポイントにおける参加者数を割り出しています。こうすることで、ブロックチェーンを支配するための最小人数を導き出し、ブロックチェーンの安全性(分散性)を測定することを狙いとしています。
基本的にナカモト係数と同じ概念ですが、「ブロック生成力の50%」ではなく「66%」とすることで、ブロックチェーンの支配力をよりリアルに測定することを目的としていると考えられます。
(ちなみに「τ(タウ)」とは、ギリシャ文字の1つで、数学や物理学で「π」などと同様に変数として用いられます。一般数学や物理学では、新たに定義された円周率や、RC回路の時定数などで使用されています)

【カルダノ】
他の指標と異なり、PoSが開始された2020年8月には「1」から動きは大きくなく、2ヶ月後の10月から変数が「3」へと上昇。これは、大多数のブロック生成がIOGの手から離れるまで時間がかかったと解釈できます。それ以後からは右肩上がりで上昇し、2022年4月には「100」の大台を突破。その後も上昇を続けています。

【ビットコイン】
ビットコインは、その他の指標と同様に、独占率と連動した動きをしています。2020年4月に記録した「2」という数値は、ブロック生成における独占度合いとしては非常に危険な数値だと言えるでしょう。その後も、最大値を「6」として、直近の2023年では「3〜4」で推移しており、ネットワーク支配が容易な状態であると考えられます。

【イーサリアム】
イーサリアムは、例によって「マージ」を境に大きく動きます。長らく「4〜6」で推移していたものの、「マージ」直後は「9」と跳ね上がり、直後に暴落。数値はその後「3」を継続しており、この指標でもやはりマージ以前より悪化してしまっています。

カルダノの高い分散性が証明されている

このように「エディンバラ分散性インデックス(EDI)」では、上記の複数の指標をもとに各ブロックチェーンの「分散化度合い」を多角的に浮き彫りにしていることがわかります。
上記で紹介した様々なデータを読み解いていくことで、改めてカルダノのPoS(ウロボロス)があらゆる面でブロック生成における分散化に成功していることを客観的に理解できる結果となっています。
そのほかのチェーンの中では、テゾスも比較的良好な数値が出ている点も興味を引かれます。

しかし、このEDIにおいて最も注視すべきなのは、イーサリアムではないでしょうか。イーサリアムは2022年9月の「マージ・ハードフォーク」によってPoWからPoSへとコンセンサス・アルゴリズムを変更しましたが、その結果として、PoW時代よりも集中化へ向かってしまったことが数値的に証明されています。つまり、イーサリアムのマージは、ブロック生成における消費電力の減少には効果がありましたが、ネットワークの分散性としては悪化する結果となっています。

また、今回のデータでは、ビットコインキャッシュやライトコインなど、現在では時価総額的にあまり注目されていないチェーンが主に取り上げられているため、ソラナ(SOL)やビルド・アンド・ビルド(BNB)などの数値も気になるところです。

この「エディンバラ分散性インデックス」は、カルダノのチーフサイエンティストであるキアイアス教授を中心に構築されてもののため、やはり「カルダノびいきのデータだろう」という見方をする方もいるのではないかと思います。しかし、この指標は学術的なプロジェクトのため公開されており、ツール自体もオープンソースでgithubで公開されています。このデータに疑いがある場合はソースコードなどを確認することができるようになっています。

現在の「エディンバラ分散性インデックス(EDI)」はアルファ版ですが、ソラナやBNB、XRPなどの時価総額上位のブロックチェーンデータを組み込むことで、より多くの人に参照されるでしょう。また、各ブロックチェーンの学術面における研究では、今後非常に有益なツールとして多くの引用がなされることが予想されます。
金融市場においても、ビットコインがETFとしてアメリカで認められた昨今、より大きな機関投資家が各ブロックチェーンを分析する際にも参考にする可能性もあります。
EDIがどのように活用され、ブロックチェーン業界にどのように貢献していくことになるのか、今後の発展に期待が高まります。

(了)

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